多くのスタートアップにとって最初の資金調達となるシードラウンド。
「どれくらいの資金を調達すれば事業が軌道に乗るのか」「一般的な調達額はどのくらい?」と悩む起業家は少なくありません。本記事では、2024年最新のデータを基に、シードラウンドの平均調達額と成功に導くポイントを詳しく解説します。
シードラウンドとは何か?
シードラウンドは、創業前後のスタートアップが実施する、本格的な事業展開を行うための最初の大規模な資金調達です。エンジェルラウンドやプレシードよりも規模が大きく、シリーズAの前段階として重要な位置づけとなります。シードラウンドが初めての資金調達ラウンドとなるスタートアップも多くあります。
シードラウンドでは、事業がアイディア段階、またはプロトタイプを制作中の段階であることが多いです。シードラウンドで得た資金でプロダクトの開発を一気に加速させリリースまでもっていき、仮説検証を繰り返しプロダクトマーケットフィットを達成させて、次のシリーズAラウンドへと進むことになります。
2024年日本市場における平均調達額と中央値
ここからは国内スタートアップのシードラウンド資金調達状況を見ていきましょう。2024年上半期で公表データ等より把握されている数値としては、シードラウンドの平均資金調達額は1.1億円、中央値は4,000万円でした。中央値から考えると2,000万~7,000万円程度が相場と言えるでしょう。
シードラウンドの資金調達額は年々上昇しており、2019年の中央値は2,840万円、2021年の中央値は3,300万円、そして2024年は4,000万円と、5年で40%ほどの増加ペースとなっています。
また、シードファイナンス後のポストバリュエーションは、中央値で4億円となっています。シードファイナンスの相場としては2億円-5億円と推定されます。
(出典:スピーダ社「2024 上半期Japan Startup Finance」)
資金調達額はどのように決めればいいのか?
シードラウンドでいくら調達するのか、は非常に重要な問題です。多ければ多いほど安心できますが、調達額が多ければそれだけ株式を放出しなければなりませんし、創業者持ち株の希薄化が進みます。
私が考える資金調達額の決定方法は3STEPあると考えています。
- STEP1 直近1ー2年の事業計画(開発計画)を綿密に作る
- STEP2 事業計画に基づいた収支計画を綿密に作る
- STEP3 収支計画に基づいて、いくら必要なのかを算出する
まず事業計画は投資家へのプレゼンでも必要になりますし、経営戦略そのものですので、創業期のリソースはほとんどここに注いでもいいくらいしっかりしたものを作りましょう。いつまでに開発をどこまで進めていつプロトタイプが完成していつリリースできるのか…このようなスケジュールを決めないで出たとこ勝負で進めるプロジェクトは、ブジネスではなく趣味です。100%計画通りに行くことはありませんが、計画に基づいて仕事を進めること、計画からずれた時にいかに軌道修正できるのか、が事業成功への近道です。
そして、その事業計画に基づいて収支計画を作るわけですが、これは起業家だけでは厳しいケースもあります。個人的には税理士のような会計財務の専門家と一緒に作ることをオススメします。起業家が一人で作ると数字の根拠が曖昧だったり、見積りが相場と大きくかけ離れていたりするケースが散見されます。スタートアップ支援に特化した専門家であれば、事業計画のところから一緒に作っていけるので、リソースがとにかく不足する創業期には力強いアドバイザーとなることでしょう。
収支計画ができたら、その数字を基にいくら必要なのか、を算出します。つまり、何か月分の運転資金(または設備資金)を調達するか、を決めるのです。スタートアップでよく耳にするランウェイとは、「企業のキャッシュが尽きるまでの残存月数」です。ランウェイ12か月分の資金調達だと、1年後にキャッシュがなくなって、次の資金調達が必要になるということです。
シードファイナンスの次にはシリーズA以降のファイナンスラウンドが待ち受けますが、それまでの期間をどれくらい見積るか、という観点で、資金調達の額が決まってきます。
相場としては、シードラウンド調達額のランウェイは12-24カ月が多いです。あまりに短いと次のラウンドの準備にリソースが取られ、肝心の事業に集中することができません。事業計画と収支計画を見定めて、適切な資金調達額を算出したいところです。
バリュエーションはどうやって決めるのか?
シードラウンドでの調達額を決定する要因は多岐にわたります。プロダクトがなくアイディア段階のケースが多いため、創業チームの強さやマーケット規模、技術やビジネスモデルの競争優位性などで判断されます。特に決まりはないものの、私は下記のスコアリングカード方式(ペインメソッド)のウェイトを基にバリュエーションに関するアドバイスを提供しています。
評価項目 | ウェイト |
起業家とチームの強み | 30% |
想定事業規模 | 25% |
製品と技術 | 15% |
競争上の環境 | 10% |
マーケティング・販売・パートナーシップ | 10% |
追加的な投資需要 | 5% |
その他 | 5% |
合計 | 100% |
あとは契約条件もバリュエーションには大きく影響してくると考えられます。普通株なのか、優先株なのか、M&A時の分配は参加型なのか、非参加型なのか、など、投資契約では決めることがたくさんあります。弁護士の先生と契約していないスタートアップでも、シードファイナンスの段階では法務の専門家に投資契約をレビューしてもらうことをオススメしています。
参考:シードラウンドにおけるスタートアップのバリュエーションはどのように決めればいいのか?
まとめ:2024年のシードラウンド成功のカギ
シードラウンドでの適切な調達額は、事業計画の実現に必要な具体的な資金額、市場環境と競合状況の分析、チームの実績と信頼性、そして次のラウンドまでの期間設計を総合的に判断して決定する必要があります。
少なすぎる調達は成長機会の損失を招き、多すぎる調達は不必要な株式希釈化につながります。市場平均は参考程度に留め、自社に最適な金額を設定することが重要です。
適切な調達額の設定と効率的な資金活用は、スタートアップの持続的な成長を支える重要な要素となります。投資家との密な対話を通じて、最適な調達戦略を構築していくことが、シードラウンド成功への近道となるでしょう。