新しいビジネスを始めるためは、情熱とアイディアだけは足りません。実現には資金が不可欠です。創業者にとって、その初期のステージで資金調達を成功させることは、事業の成否を左右する鍵となります。本記事では、創業融資の重要性と、効果的な融資を得るためのステップについて探ります。

本記事を読む多くの起業家にとって、身近で実現可能性が高い資金調達方法は金融機関からの借入でしょう。創業融資は通常の融資よりも条件が良く、しっかりと創業期に資金調達をして事業を軌道に乗せる事は、事業の成否に大きく関わってきます。

創業融資におけるキーワードは「公庫(制度融資)」「自己資金」「事業計画書」です。

以下では、創業融資の種類や選び方、融資を受けやすくするためのポイントなどについて解説していきます。

公庫ってなに?

公庫とは、正式には日本政策金融公庫という名称です。国が100%出資している政府系金融機関です。

公庫は何が良いの?

公庫は創業者に優しいです。前述のとおり、創業直後は返済能力が判断できないため、融資のリスクが非常に高いですが、公庫は事業プランや自己資金がしっかり準備されていれば融資の相談に乗ってくれます。特に「新創業融資」という商品は、無担保・無保証で借入をすることができます。加えて、金利が低いのです。公庫は営利企業ではなく、日本経済の発展、国民生活の向上を目的としているので、事業者に寄り添った融資ができるのです。

制度融資ってなに?

制度融資とは、信用保証協会の保証付きの融資です。簡単に言えば、金融機関からの借入において公的機関である信用保証協会が保証人になってくれるわけです。

制度融資は何が良いの?

なぜこの制度融資が良いのかというと、公庫と比べて金利が低い条件で借りられるケースが多いからです。

金融機関は、リスクの高い相手には融資をしません。返済可能性が高い信用力のある企業に貸したいと思うのは経済合理性から考えて当然の話です。創業直後の企業には信用が全くありません。金融機関にとっては融資対象としてリスクが高い取引になりますが、信用保証協会が保証人になってくれることにより、一気にリスクが低減します。この保証により融資を受けられることになるのです。

信用保証協会には保証料を支払う必要がありますが、この保証料を自治体が補助(または優遇)してくれます(ケースによる)。この補助や優遇により、金融機関から借り入れる利率+保証料の合計額が、公庫借り入れの金利を下回るのです。

自治体は地域での創業が成功し、企業が発展すれば、税収にも雇用にもいい影響があるので、このような仕組みになっているのです。

したがって、制度融資が利用できる金融機関は、地域に根差した信用金庫などになっています。

どのような制度融資はあるのかは、各自治体が案内をリリースしていますので調べてみてください。例えば東京都では以下のような制度になっています。

(参考)東京都中小企業制度融資『創業』

https://www.tokyo-sogyo-net.metro.tokyo.lg.jp/finance/seido_yuushi.html

融資金額 3,500万円以内

制度融資と公庫はどっちが良いの?

審査面

審査の面から言えば、一般的には公庫を最初に申請してから、不足分を制度融資で賄う形がいいでしょう。公庫は融資の審査が比較的通りやすいのと、公庫の設立目的として、民間金融機関の補完的な立ち位置の金融機関であるからです。一般的には公庫→制度融資の流れがスタンダードです。

金利面

ただ、金利面から言えば、まずは制度融資を申請して、不足分を公庫で申請するという形が良いでしょう。実質的な金利負担は制度融資の方が有利なケースが多いからです。加えて、本来公庫は金融機関の補完的なポジションなので、制度融資の補完として公庫を利用するというケースが、本来の趣旨に沿っています。

融資までのスピード

融資決定までのスピードは公庫の方が早いです。公庫はおおよそ一カ月、制度融資はおおよそ2か月といったところです。制度融資は信用保証協会と金融機関という二者の審査が入るためです。

結論 どちらを先に申込すべき?

個人的には、まず市区町村の制度融資を調べて、利率がかなり有利であれば制度融資を検討すべきと考えます。

例えば、港区の制度融資である創業支援融資では、実質負担金利が0.2%と非常に有利な条件で借り入れることができます。ただし、このような制度を利用するためには、区所定の創業支援を受け、創業計画書を作成しなければならなかったりと、多少の制約があります。ただ、それを補って余りあるメリットだと思いますので、ご自身の創業する自治体の制度をしっかりと調べてみましょう。

自己資金ってなに?

自己資金とは、事業を始めるために自分で用意した自由に使える資金です。公庫の借入では、自己資金の2倍が融資限度額と言われていたりします。例えば、自己資金400万円の場合、融資の上限は800万円が目安ということになります。

自己資金は起業家の覚悟を表します。この事業を本気でやろうとしているのか、どれだけの準備をしてきたのか。いくら情熱があっても自己資金は僅少では、その覚悟に疑問を持たれてしまいます。

金融機関は企業が継続的な繁栄をするという前提で融資をします。一時の感情や情熱だけでは金融機関を説得できないでしょう。

補足ですが、公庫における創業融資の上限は1,000万円程度と言われています。それ以上の融資を引くのであれば、それなりの理由が必要になるでしょう。

事業計画書がどうして重要なの?

金融機関の審査は、大雑把に言って、過去と現在と未来を見て審査します。過去は「自己資金」、現在は経営者面談、未来は「事業計画書」です。自己資金が十分で、面談の印象が良くても、事業計画書がスカスカでは、金融機関の信用は得られないでしょう。

事業計画書は融資のためだけに作成するのではありません。実際に創業して、これからどのように事業を運営していくか、についての設計図です。この計画作成を蔑ろにするようでは、経営者としての適性に疑問を持たれてしまいます。

融資を受けるためのポイント

創業融資の審査では何が重視されるのでしょうか。日本政策金融公庫が発行するある資料では、以下の着眼点を挙げています。

  • 自己資金
  • 起業家の経験、能力
  • 返済可能性
  • 資金使途

起業家の経験、能力について

起業するまでに経営者がどのような経験、キャリアを積んできたのか、を金融機関は注視します。同業界、同業種での起業は融資の審査に有利に働きます。例えば、一流ホテルのシェフとして10年勤務した人が、独立して洋食屋さんを開業する、または大学病院で働いていた医師がクリニックを開業する、などです。一方で、経験やキャリアのない分野で起業する場合、金融機関を納得させるだけの材料がないと融資はかなり厳しいでしょう。どれだけ輝かしいキャリアや経験があっても、起業する事業と関連性がなければ何の意味もありません。

自己資金について

自己資金は、その事業を始めるにあたってどれだけの覚悟があるか、という証明になります。さらに、経営者が計画性のある人物かどうか、という視点でも着目されます。開業資金をどうやって用意したのか、という調達方法も重要です。給料でコツコツ貯めてきたのであれば、好印象ですね。

もし、この事業をやるためにお金が必要ですが、手元資金は全然ありません、という方が融資の相談に来たら、話に信憑性はあるでしょうか。本当に事業を起こしたいと思ったら、日々の生活で節約したり、副業などして資金を集めるなど、いくらでも方法はあります。

そして、上に書いた通り、自己資金は融資の金額にも影響します。明示されてはいませんが、一般的な起業で、公庫の融資上限は自己資金の2倍以内です。100万円しか自己資金がなければ200万円が融資上限です。

自己資金は計画的に用意しましょう。

出典:日本政策金融公庫発行資料

特定創業支援等事業とは?

ここで創業時にせひ利用してもらいたい特定創業支援制度について説明します。これは、国や自治体が起業家をサポートするために創設された計画です。簡単に言うと、自治体が定めた創業支援プログラムを受け、その証明書が発行されると様々なメリットが享受できるものです。

創業地の自治体によって利用の可否(※)はあるのですが、もし可能なら、ぜひ証明書取得をオススメします。

具体的なメリットとしては、

  • 公庫の借入利率の引き下げ(引き下げ0.4%程度)
  • 自治体の創業関連補助金への申込資格
  • 制度融資の優遇利率(例 港区は実質金利負担0.2%)
  • 小規模事業者持続化補助金の創業枠への申込
  • 新規開業賃料補助(港区の場合)

などがあります。融資や補助金関係でとても優遇されます。

※ 宮城県、栃木県、埼玉県、石川県、福井県、山梨県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、鳥取県、広島県、山口県、愛媛県、福岡県についてはすべての市町村で認定。

参考:港区の創業・起業支援事業|東京都創業NET

女性・若者・シニアは東京都での創業が有利!

女性、若者(39歳以下)、シニア(55歳以上)以下は東京都が融資のサポートをしており、融資限度額1,500万円(運転資金は750万円)以内で、固定金利1%以内の好条件で借入をすることができます。さらに事業計画アドバイスや経営・決算書作成に関するアドバイスも受けられます。

詳しくは以下をご覧ください。                     

(参考 東京都 女性・若者・シニア創業サポート事業) 

https://cb-s.net/tokyosupport