シードファイナンスの支援をしていると、起業家の方からバリュエーションについての相談を受けることはよくあります。バリュエーションはスタートアップのファイナンスに説いて重要な要素ですが、起業家の方にとって、自社の企業価値を客観的に見た場合どれくらいになるかというのは想像かつかないというケースも良くあります。
プレスリリースでよく見るシードファイナンス実施の記事も、資金調達金額については記載があるものの、バリュエーションについては書いてないですよね。未上場企業のバリュエーションは基本的に公開されていません。
一般的にシードファイナンスの場合、ポストバリューで1億円-5億円のレンジで決定されることが多いです。しかし、ポストで2億円なのか、5億円なのか、は大きな違いです。5,000万円のシードファイナンスであれば、放出率が40%なのか、10%なのか、というぐらい変わってきます。
この記事では、企業価値評価理論に基づいたシードスタートアップのバリュエーションについて個人的な考え方をご紹介したいと思います。
スコアリングカード方式(ペインメソッド)の準用
ここで紹介するスコアリングカード方式は、本来ベンチマーク企業を設定し、その企業との比較において各項目でどれくらい優劣があるのか、という観点から企業価値を算出するものです。
この方式で厳密に企業価値を算出するのはあまりにもコストがかかるし、定性的な情報を無理やり定量情報に変換するのは恣意性が入り込む余地が大きいと考えます。しかしながら、この評価項目と評価におけるウェイトというのは参考になるため、この方式を準用して当たりを付けるのは一つの考え方ではないかと思います。
評価項目 | ウェイト |
起業家とチームの強み | 30% |
想定事業規模 | 25% |
製品と技術 | 15% |
競争上の環境 | 10% |
マーケティング・販売・パートナーシップ | 10% |
追加的な投資需要 | 5% |
その他 | 5% |
合計 | 100% |
(引用:池谷誠著「スタートアップバリュエーション」中央経済社)
シードフェーズにおけるスタートアップは、プロダクトやサービスがアイディア段階、またはリリース前後なので、プロダクトがマーケットフィットをしているのかを見極める前に投資判断をする必要があります。そこで投資家は何に着目するのか、というのがこの評価項目です。
起業家とチームの強み
起業家やチームメンバーのキャリア、業績、そしてリーダーシップの能力が評価されます。事業領域において大きな実績を残していたり、一度事業を成功させて売却した経験があったりすると一般的には評価は高くなります。特定の業界における専門知識やネットワークも評価の対象です。リソースのない創業初期において最も大きくそして重要なリソースは人以外にあり得ません。
想定事業規模
その事業が成功し、想定通りに拡大した際の売上規模や利益率、それだけの事業規模になるのか、という点が見られます。これは成功のアップサイドがどれくらいあるのかということで、市場規模10億円のマーケットでシェアを100%取ったってマックスは売上10億円しかないわけです。そこに投資するのはリターンが限定的になってしまいます。マーケットポテンシャルが大きいかどうかは重要視されます。また、市場の成長率や事業のスケーラビリティも重要な評価項目です。
製品と技術
プロダクトやサービスにどれだけ革新性・技術的な優位性があって、どれほどの参入障壁があるのか。開発ロードマップの具体性や、製品サービスの拡張性も評価されます。
競争上の環境
競合他社はどこなのか、プロダクトやサービスがどこまで完成されていて、シェアはどれくらいで、どういう展開になるのか。競合の状況は非常に重要です。他社とどのように差別化されているのか、市場でのポジショニングはどのあたりなのか。競争優位性はどれほど持続できる見込みなのか。経営戦略を考える上で、起業家側もしっかりと調べておいた方が良いでしょう。
マーケティング・販売・パートナーシップ
パートナーシップを締結している企業があると、その内容によっては評価されます。例えば、開発系のスタートアップだった場合に、良い見込み顧客を保有する企業が、営業支援をしてくれたりすると、売上への道筋が容易に想像できますよね。
追加的な投資需要
事業を進めていく上で、この先のラウンドでどれくらいのファイナンスが必要なのか。今回のラウンドにおける資金調達額は妥当なのか、資金使途は何なのか、出口戦略の具体性はどうなのか。
この評価項目は、単なる資金需要の把握だけでなく、スタートアップの財務計画の成熟度と経営陣の資金管理能力を測る重要な指標となります。
資金使途の具体性と、その資金が事業価値の向上にどのように貢献するかの説明です。また、追加調達の必要性を最小限に抑えるための収益化計画や、不測の事態への対応力も重要な評価ポイントとなります。
株の種類によるバリュエーションの変化
株式の種類によってもバリュエーションは変わります。普通株、みなし優先株、優先株など色々ありますが、優先株にして投資家側が有利な条件で株を発行する場合、バリュエーションは高めになる傾向があります。基本的に投資家側はリスクをできるだけ抑えたいので、優先株寄りの株式発行を求めてくるケースが多いように感じます。M&Aの場合にどうするのか、ダウンラウンドになった場合どうするのか、などについて、法務の観点から弁護士のアドバイスを聞くことをオススメします。
バリュエーションを取るか、株式の有利不利を取るかは、一概にどちらが良いとは言えません。
起業家側もバリュエーションの基本を理解すること
シードファイナンスの場合、一般的に投資するVCは多くて3社です。金額によっては1社ということもあります。そうすると、相対取引になり、基本的には双方が合意すればバリュエーションのロジックなんてどうでもいいわけです。この場合、バリュエーションについてVCから提案してくる場合もあります。何もわからないスタートアップの場合、VCの提示するバリュエーションをそのまま受け入れてしまうケースも珍しくありません。
会社の価値というのは不確実性が高く、シード期の場合、本当にロジックなどあってないようなものです。財務情報やトラクションさえほとんどない中で、アイディアベースの事業を正確に見極めるのは困難です。そのような中でも、起業家側はある程度自分たちの中で前述したような評価項目からバリュエーションを推定し、交渉に臨むということが大事かなと思います。
アドバイザーの立場からVCの条件に対する助言をすることは可能ですのでお問い合わせください。
参考文献
池谷誠著「スタートアップバリュエーション」中央経済社