会社を設立し、事業を運営していくためにはお金が必要です。その元手を資本金と言います。資本金の額は、登記事項として登記に記載されるので、第三者からもその金額が把握可能です。資本金は事業運営のための資金であると同時に、企業体力や会社の信用度を表す指標となりえます。
では、資本金の額はどのように決めればいいのでしょうか。会社法上は資本金1円から設立可能ですが、現実的には1円で事業を始める事は不可能です。会社を作るだけで20~30万円かかります。一般的には、以下のような計算をして、自己資本の最低ラインを産出してから資本金を決めていくのが良いでしょう。
資本金の決め方
開業に必要な設備資金や家賃などの必要経費、当初の仕入代金などの原価を支払うための運転資金を計算する
事業を軌道に乗せるまでにどれくらいの資金が必要かを計算する(一般的には3カ月~6カ月程度の運転資金)
STEP1+STEP2の合計金額から、金融機関などからの借入予定金額をマイナスする
⇒資本金として用意すべき最低金額
上記はあくまで最低限必要な資本金の額です。創業融資は自己資本の金額で借入金額の上限が決まるため、資本金(自己資本)が大いに越したことはありません。(日本政策金融公庫の創業融資は、自己資本の2倍程度が融資の上限金額とされるケースが多いです)
資本金と自己資本の違いとは?
基本的にはどちらも「返済不要の元手」と認識しておけばいいでしょう。
厳密に言うと、資本金と自己資本は同じような意味ですが、少し違いがあります。資本金はバランスシートで言う純資産の部の属する科目の1つですが、自己資本は純資産の部全体を表します。自己資本は返済不要の元手であり、例えば、ベンチャーキャピタルからの出資金額などが含まれます。ほとんどのケースにおいて創業者が全額出資で設立すると考えられるので、基本的にはどちらも「返済不要の元手」と認識しておけばいいでしょう。
金融機関から借りる創業融資は資本金や自己資本には含まれません。バランスシートでは負債の部で借入金として表示されます。
事業によっては最低資本金が条件の場合もある
人材紹介業や建設業など、その事業をするために許認可が必要な事業の場合、ある一定以上の金額が許認可の条件になっている場合もあり、資本金の額に注意する必要があります。
- 有料職業紹介事業 500万円以上
- 一般労働者派遣事業 2,000万円以上
- 一般建設業 500万円以上(自己資本として)
- 特定建設業 2,000万円 など
税制面における1,000万円の壁
資本金1,000万円以上かどうかで、税制面において大きな違いがあります。
消費税
資本金1,000万円以上の場合はその時点で課税事業者(免税の特例が受けられない)となるので、消費税の2割特例(インボイス制度により免税事業者が課税事業者になった場合の特例。令和8年9月の属する事業年度まで)が受けられません。
法人住民税
課税所得に関わらず課税される法人住民税均等割りが、7万円/年から18万円/年に増加します。(従業員50人以下の場合)
資本金等の額 | 都道府県民税均等割 | 市町村民税均等割 | 市町村民税均等割 |
従業者数50人超 | 従業者数50人以下 | ||
1千万円以下 | 2万円 | 12万円 | 5万円 |
1千万円超1億円以下 | 5万円 | 15万円 | 13万円 |
1億円超10億円以下 | 13万円 | 40万円 | 16万円 |
10億円超50億円以下 | 54万円 | 175万円 | 41万円 |
50億円超 | 80万円 | 300万円 | 41万円 |
(参考:https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/150790_08.html)
税制面における1億円の壁
資本金1億円超になると、税制面で大きな変化があります。基本的に税負担が重くなります。法人税法上の分類として、資本金1億円以下が中小企業、資本金1億円超が大企業なので、中小企業の税制上の特例が適用外になります。
法人税率の優遇
中小企業は年間所得800万円までは法人税率の優遇を受けられます。(執筆時現在15%。通常は23.2%)
繰越欠損金の全額控除
青色申告法人の場合、前期以前の損失を翌期以降に繰り越し、課税所得から控除することができます。中小企業の場合は繰越した損失を全額控除できるのに対して、大企業は50/100までしか控除できません。
交際費等の損金不算入
中小企業は交際費等に該当する費用のうち、800万円までは損金に算入することができます。一方で大企業にはこの優遇がなく、交際費のうち接待飲食費に該当する費用の50%が損金として認められます。
法人事業税の外形標準課税の適用外
中小企業は外形標準課税が適用外です。外形標準課税とは、所得に応じた課税でなく、その企業規模に応じて課税される法人事業税です。赤字であっても、報酬給与額やオフィスの賃料などの収益配分額や資本金等の額に対して課税されます。中小企業は単純に所得に応じた所得割なので、赤字の場合は法人事業税は課されません。
参考
日本の法人の資本金の分布を表した表が下表です。
資本金 | 法人数 | 割合 | |
100万円 | 以下 | 546,399 | 19.19% |
100万円 | 超 | 81,013 | 2.85% |
200万円 | 〃 | 1,145,308 | 40.23% |
500万円 | 〃 | 708,986 | 24.91% |
1000万円 | 〃 | 144,214 | 5.07% |
2000万円 | 〃 | 150,483 | 5.29% |
5000万円 | 〃 | 53,496 | 1.88% |
1億円 | 超 | 10,600 | 0.37% |
5億円 | 〃 | 1,526 | 0.05% |
10億円 | 〃 | 2,917 | 0.10% |
50億円 | 〃 | 722 | 0.03% |
100億円 | 〃 | 1,018 | 0.04% |
合計 | 2,846,682 |
(引用:国税庁 令和3年度会社標本調査)
日本全体の9割近くが資本金1,000万円未満です。いかに中小企業が多いのかがこの数字で示されています。だからといって資本金1,000万円未満で設立すべき、というわけではなく、経営者の考えやそれぞれのケースにおいて検討するべきであると考えています。
資本金は事業開始後に増額することもできます(増資、という)。事業規模が拡大する過程で増資することも一般的です。第三者の出資なども考えられますので、資本政策は永続的に検討すべき事項です。