本店所在地と本社は違う

本店所在地とは「登記上の会社の住所」です。一般的に言う「本社」とは意味合いが異なります。本社が本店所在地の会社もあるし、本社とは別の住所に本店所在地を置いているケースもあります。よく見受けられるケースとしては、地方で創業して事業が拡大し、東京に進出して東京オフィスを本社にしたが、本店所在地は地方の創業地のまま、などです。

これから創業される方は、特に事情がなければ実質的に営業するメインのオフィスを本店所在地として登記すれば良いと考えます。

本店所在地を管轄する役所で手続き

本店所在地によって役所の管轄が変わります。例えば、税務署や法務局の管轄は、本店所在地によって判断されます。そして、手続き書類などはその本店所在地を管轄する役所に提出することになります。したがって、事業をしている場所を本店所在地にすれば、管轄の役所も比較的近いところになり、実際に赴く際は便利です。(もちろん、書類の提出は電子や郵送で対応している役所もあります)

本店所在地はビル名を省略しても可

本店所在地は建物名を省略しても問題ありません。

例えば、東京都千代田区1-1-1 スタートアップビル9階

が会社の住所だとすれば、

東京都千代田区1-1-1
東京都千代田区1-1-1 9階
東京都千代田区1-1-1 9F

などでも問題ありません。

役所の郵送物は本店所在地を基に発送されるケースが多いので、郵便物が届く範囲での省略(階数や部屋番号は記載する)に留めておいた方が無難でしょう。

定款に記載する住所は最小行政区間まででOK

定款にも本店所在地を記載する必要がありますが、こちらは市区町村などの最小行政区間まででOKです。例えば、東京都千代田区、などです。これは同じ行政区間で異動する場合は、定款の変更登記が不要になるからです。定款に地番まで記載してしまうと、同じ行政区間での異動でも、株主総会による定款変更の特別決議が必要になります。

レンタルオフィスやシェアオフィスは登記の可否に注意

最近はレンタルオフィスやシェアオフィスを創業の地に選ぶ起業家も多いと思われます。それらの場所を本店所在地にする場合は、必ず管理者に本店所在地としての登記がOKかどうか確認しましょう。多くのレンタルオフィス等では、登記の可否を案内していることが多く、プランによって可否が変わります。

また、通常の賃貸契約であっても、会社の本店所在地としての登記を禁止しているケースがありますので、賃貸契約書をよく確認してください。

また、最近ではバーチャルオフィスを本店所在地にすると、銀行の法人口座開設が難しいという話も聞きますので注意してください。

自宅を本店所在地にすると、全世界に公開される?

本店所在地は登記の絶対記載項目なので、もし自宅を本店所在地にしている場合は、自宅の住所が本店所在地として公開されることになります。

さらに、登記には代表者の住所も記載項目としてありますので、いずれにしても代表者の住所というのは公開されてしまうのです。(これは債権者を守るためです)

しかし、プライバシーの観点からこの代表者住所の記載については以前から議論されており、令和6年度中の改正で、代表者の住所については、希望すれば非公開にできる方針が示されています。

参考:日本経済新聞|会社代表者の住所、希望者は非公開へ 法務省24年度にも

本店所在地の変更は最低3万円の費用が掛かる

本店所在地を変更することは可能です。その場合、その法務局の管轄内での異動か、管轄が変わる異動かで登録免許税が変わります。

管轄内の異動3万円
管轄外へ異動6万円(旧法務局と新法務局への納付)

オフィスの決め方

本店所在地やオフィスをどこにするか、というのは経営者の経営判断なので、一概にこれが正解、というのはありません。アドバイスできるとすれば、自治体によって創業支援の充実度が変わるので、自治体による違いは確認しておいて損はないでしょう。また、同業他社の所在地や取引先の所在地も重要です。

米国カルフォルニア州のシリコンバレーは、ITスタートアップの聖地としてよく知られていますが、ヒトモノカネのリソースが集中し、経験も蓄積されることで、幾多のチャンスが発生し、巨大な企業に成長するスタートアップが次々の誕生しました。国内における特定の業種においても、同業が集中している地域というのがあります。地域が一種のブランドとなっているケースもあります。

自社の業種、特性、戦略、方向性を考えながら、創業の地はじっくり決めましょう。

参考法令

会社法第27条第3号
会社法第911条第3項第3号