なぜスタートアップには専門性の高い税理士が必要なのでしょうか?

スタートアップの成長において、適切な税理士の存在は想像以上に重要な意味を持ちます。特にシードステージでは、創業間もない企業特有の課題や、将来の資金調達を見据えた体制作りが必要となります。

スタートアップ支援の知見を持っている税理士と提携することで、創業期の事業加速に大きな貢献を期待できます。税理士の中には税務会計の知識だけでなく、経営アドバイザーとして企業の成長に貢献できる人材もいます。そのような税理士と提携することは、スタートアップの事業加速に追い風となるでしょう。

本記事では、シードステージのスタートアップが税理士を選ぶ際の重要なポイントについて、実践的な視点から解説していきます。

創業期の税務顧問に求められる役割

バックオフィス体制の構築支援

シードステージのスタートアップでは、創業者自身が経理未経験というケースも少なくありません。この段階での税理士には、基本的な経理体制の構築から実務面でのアドバイスまで、幅広いサポートが求められます。

クラウド会計ソフトの選定や導入支援に始まり、日々の経理処理のルール化、経費精算フローの確立など、包括的な支援が必要となります。

特に重要なのは、将来の拡大を見据えた場合のスケーラビリティです。初期段階から拡大に耐えうる経理の仕組みを整えることで、成長期における混乱を最小限に抑えることができます。企業の成長に伴い取引量が増加すると、事務作業量も比例して増大するため、ここに経営者のリソースがとられてしまうと事業の加速スピードに悪い影響が出てしまいます。

創業期に税理士と提携しバックオフィスの体制を整えておくことで、一気に事業を成長させることのできる基盤を作ることが求められます。

参考記事:スタートアップのバックオフィス業務を税理士事務所に委託し、コア業務に集中しよう

資金調達に向けた準備

シードステージの次のステップとして必ず見据えるべきが資金調達です。この段階で税理士に求められる重要な役割は、事業計画の財務面でのレビューと実現可能性の検証です。特に収益予測や原価計算の妥当性、必要運転資金の算定など、資金調達の根拠となる数値について、専門家の視点から精査することが重要です。

また、調達金額の設定においても税理士の知見は重要な意味を持ちます。漠然とした金額ではなく、実際の資金繰りを見据えた調達額の算定や、時期的な資金需要の分析を通じて、適切な調達規模を見極めることができます。

バリュエーションの算定については、スタートアップ特有の評価手法を理解し、事業ステージに応じた適切な価値算定についてアドバイスできることが求められます。

参考記事:シードラウンドにおけるスタートアップのバリュエーションはどのように決めればいいのか?

資本政策の策定においては、創業者や既存株主の持分比率の変動、調達後の株主構成、将来的な出口戦略まで見据えた総合的なアドバイザリーが必要となります。特に創業者の持分比率については、モチベーション維持と資金調達のバランスを考慮した慎重な判断が求められます。

経営アドバイザーとしての機能

税務顧問としての役割に加えて、スタートアップの税理士には経営アドバイザーとしての機能も期待されます。

事業計画の策定、人材戦略、マーケティングなど、創業初期において考えるべき経営検討事項は次から次へと出てきます。創業メンバーだけでは判断しきれない事項について、経験と知識豊富な税理士からのアドバイスは非常に有用となるでしょう。

シードステージのスタートアップが選ぶべき税理士の特徴

スタートアップ支援の実績

スタートアップ支援の実績は、税理士選びにおいて最も重要な判断基準です。

一般的な中小企業向けの税務顧問業務と、スタートアップ支援では求められるスキルセットが大きく異なるためです。シードステージからの支援実績、資金調達時のサポート経験、さらにはスタートアップ特有の税務処理への対応実績など、具体的な経験値を確認することが重要です。

クラウドツールへの対応力

現代のスタートアップにとって、クラウドツールの活用は必須となっています。

税理士もまた、これらのツールに精通していることが重要です。マネーフォワードやfreeeをはじめとしたクラウド会計ソフトの導入支援能力は基本として、オンラインでの業務対応やデジタル化された証憑管理など、現代的なツールを活用した効率的な経理体制の構築をサポートできる存在であることが求められます。

柔軟な支援体制

スタートアップの成長は予測不可能です。そのため、税理士には柔軟な支援体制が求められます。

リモートでの支援体制が整っていることはもちろん、成長に応じた報酬体系の調整が可能であることも重要です。

特に、緊急時の対応力は重要な判断基準となります。スタートアップでは予期せぬ事態が頻繁に発生するため、そうした状況下でも適切なサポートを提供できる体制が整っていることが必要です。

ネットワークの広さ

将来の成長を見据えた場合、税理士のネットワークは非常に重要な要素となります。

各士業とのコネクションやスタートアップ支援機関とのつながりなど、幅広いネットワークを持つ税理士であることが望ましいです。これらのネットワークは、企業の成長段階において様々な形で活用することができます。

税務顧問費用の考え方

シードステージの税務顧問費用は、一般的に年間50-150万円程度が相場となっています。

例:月額顧問料 3万円から8万円程度
  決算申告料 20万円から40万円程度

年間50万円というのはスタートアップ支援をする税理士事務所としては最低限の相場となりますが、リソースの不足する創業初期はプロダクトやサービス開発、マーケティングに費用を投下するのが事業にとって大事な時期のため、そのような理解のある税理士は創業初期は相場並みかそれより低い報酬体系にして、スタートアップの成長に応じて報酬も変動していく体系を取っています。企業の成長に合わせて取引量や税務リスクも比例して増大していくため、事業成長に応じた変動報酬体系の方がスタートアップには合っていると考えられます。何より、企業が成長していけばキャッシュが入ってくるため、バックオフィスに投下できるリソースも確保できるからです。

この顧問費用には、月次決算の確認や税務申告の支援、定例ミーティング、基本的な税務相談などが含まれるのが一般的です。

ただし、経理業務のアウトソーシングや資金調達関連の支援、株価算定、特殊な税務調査対応などは、多くの場合オプション対応となり、追加の費用が発生することを理解しておく必要があります。

スタートアップ支援を謳っている税理士の中には年間30万円以下で請け負う税理士事務所もありますが、専門的スキルをもたずに新規顧客獲得のため安価な料金設定で集客している可能性もあるため注意が必要です。

前述したように、単なる税務会計のアウトソーシング先を選んでしまうと、スタートアップの成長にほとんど影響を及ぼしません。

注意点 記帳代行について

スタートアップは税理士事務所に記帳代行をお願いした方が良いです。

税理士事務所の中には記帳代行を受け付けていない、または記帳代行は別料金という料金体系を取っているところがあります。記帳というのは、簡単に言えば日々の取引を会計ソフトに入力することです。私自身の考えでは、スタートアップが自社で記帳をすることはオススメしません。なぜなら、創業メンバーがそのような入力作業にリソースを取られることが事業加速にとて悪影響であること、また、入力業務と言っても会計や税務の知識が必要なためプロに任せた方がクオリティを担保できること、が挙げられます。

顧問契約をしたとしても、会計入力を自社内でやるように勧めてくる税理士事務所とは契約をオススメしません。

税理士との効果的な付き合い方

税理士との効果的なコミュニケーション

シードステージのスタートアップを支援する上で重要なのは、固定的な定例ミーティングにこだわらない、柔軟なコミュニケーション体制です。

当事務所では、クライアント企業の必要に応じて随時ミーティングを設定する方式を採用しています。これにより、経営上の重要な局面や課題が生じた際に、タイムリーな相談と意思決定が可能となります。

特にオンラインミーティングツールやビジネスチャットの活用により、物理的な距離や時間の制約を受けることなく、迅速な相談対応を実現しています。急を要する相談であっても、チャットツールを通じて素早く質問を投げかけることができ、オンラインミーティングの即時設定も可能です。このような機動的なコミュニケーション体制により、スタートアップ特有の意思決定スピードにも対応できる環境を整えています。

相談内容は税務処理に限らず、経営課題の相談や成長戦略の検討、税務リスクの確認、経理体制の改善点など、幅広いテーマに対応しています。特に重要な経営判断を行う際には、事前に相談を行うことで、潜在的なリスクを回避し、より適切な意思決定を行うことが可能となります。

このような柔軟かつスピーディな対応により、クライアント企業は必要なタイミングで必要な支援を受けることができ、より効率的な経営判断が可能となります。デジタルツールを活用した密なコミュニケーションは、スタートアップの成長をよりスムーズにサポートする重要な要素となっています。

まとめ:シードステージにおける税理士活用のポイント

シードステージのスタートアップにとって、適切な税理士の選択は将来の成長に大きな影響を与えます。スタートアップ支援の実績と専門性を重視し、将来の成長を見据えた支援体制を確認し、そしてコミュニケーションの取りやすさを重要視することが、適切な税理士選びのポイントとなります。これらの要素を総合的に判断し、自社に最適な税理士を選定することで、より安定した経営基盤を構築することができるでしょう。

参考記事:グローブ税理士事務所がシード・アーリー期のスタートアップを支援する背景について